お知らせ
2025.10.20
前庭性片頭痛(Vestibular Migraine: VM)は、発作性のめまいを主症状とする神経疾患です。
以下に、前庭性片頭痛に関する要点をまとめます。
定義と診断
前庭性片頭痛(VM)は、片頭痛発作の少なくとも50%において反復性の前庭症状が生じることによって定義されます。
診断基準(ICHD-3およびICVD) VMの診断は、**国際頭痛分類(ICHD-3)および国際前庭障害分類(ICVD)**に基づく
臨床基準によって確立されます。
診断には以下の主要な基準を満たす必要があります。
- 基準CおよびDを満たすエピソードが少なくとも5回あること。
- 現在または過去に前兆のある/ない片頭痛の既往があること。
- 中度または重度の前庭症状が5分から72時間持続すること。
- 発作の**少なくとも50%**が、以下の3つの片頭痛の特徴のうち、少なくとも1つを伴うこと。
- 以下の4つの特徴のうち少なくとも2つを伴う頭痛
- 片側性の部位
- 拍動性の性質
- 中度から重度の強度
- 日常的な身体活動による悪化
- 光過敏(Photophobia)および音過敏(Phonophobia)
- 視覚性前兆
- 疫学
- 以下の4つの特徴のうち少なくとも2つを伴う頭痛
VMは診断が十分になされていない状態ですが、成人人口の1%から2.7%に有病率があると推定されています。VMは発作性めまいの最も一般的な原因と見なされています。
- VMは女性に多く(4:1)、約3分の2の患者は片頭痛の家族歴を報告しています。
- VMの発症年齢(平均38歳)は、一般的な片頭痛の発症年齢(平均23歳)よりも遅い傾向があります。
- めまいクリニックを受診する患者の約7%、片頭痛クリニックを受診する患者の約9%がVMと診断されます。
- 臨床症状と経過
前庭症状 めまい(Vertigo)は、片頭痛発作の前、最中、後、あるいは頭痛とは独立して発生する可能性があります。発作の**最大30%**は頭痛を伴わない場合があります。
めまいの持続時間は秒単位から数時間または数日間と幅広く、「30%ルール」に従うことが報告されています。
- 30%が数分持続。
- 30%が数時間持続。
- 30%が数日間持続。
- 残りの10%が数秒間持続。
前庭症状には、自発性めまい、体位性めまい、視覚誘発性めまい、頭部運動誘発性めまい(動揺感、空間識の乱れ)などが含まれます。多くの患者は、前庭症状をVMの最も生活を困難にする特徴だと感じています。
その他の症状
吐き気、嘔吐、疲労、バランス障害、乗り物酔いなどがVMの症状として挙げられます。また、聴覚症状(耳閉感、耳鳴り、軽度の難聴)はVM患者の40%で報告されていますが、非特異的であるため診断基準には含まれていません。
- 病態生理
VMの病態生理学的メカニズムは依然として十分に理解されていません。一般的に、片頭痛のメカニズムから類推されています。
- 三叉神経血管系の機能障害が主要な片頭痛メカニズムと考えられていますが、VMには前庭過興奮性、カルシウム電圧チャネル機能障害、側頭頭頂部の構造的および機能的変化も関与している可能性があります。
- 視床皮質ネットワークの機能不全が関与しており、VM患者は刺激に対する感受性が高まり、動作に対する過敏性を示します。
- 発作中のFDG-PET研究では、側頭頭頂葉の代謝亢進が示されており、前庭・視床・皮質経路の役割が強調されています。また、両側視床の活動増加も示されています。
- 三叉神経の刺激は、片頭痛患者において末梢性眼振を誘発または悪化させる可能性があり、これは前庭の過興奮性を示唆しています。
- 鑑別診断
VMの主要な鑑別診断はメニエール病です。メニエール病は症状の持続時間(20分~12時間)がVMと類似しており、耳鳴りや難聴を伴います。
その他の鑑別診断には以下が含まれます。
- 良性発作性頭位めまい症 (BPPV):症状の持続時間や頭位変換による眼振で鑑別されることが多いですが、VMとBPPVは共存することもあります。
- 脳幹性前兆を伴う片頭痛:VMとしばしば混同されますが、異なる診断基準を持ちます。VM患者の10%未満が脳幹性前兆の基準を満たします。
- 一過性脳虚血発作 (TIA)。
- 持続性知覚性姿勢誘発性めまい (PPPV)。
- 発作性運動失調症2型:遺伝性疾患で、VMと病態生理学的メカニズムを共有している可能性が示唆されています。
- 治療
VMの特異的な治療に関する研究はまだ少ない状況です。
治療の推奨 専門家は、実際的な観点から片頭痛に対する治療法と同じものを推奨しています。
- 急性期治療:片頭痛発作中には制吐薬が有益な場合があります。ある臨床試験では、ゾルミトリプタン(5mg)がめまいの強度を軽減する可能性が示されました。
- 予防治療:通常、片頭痛の予防治療で使用される薬剤が用いられます。
- 非薬理学的治療:前庭リハビリテーションが通常推奨されており、効果的であると考えられています。これは、バレエダンサーが前庭システムの変調に対して保護的な効果を示すことから、運動がめまい誘発性のめまいを軽減することを示唆しています。









