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国際頭痛学会 (IHS) の2025年 Position Statement
2025.10.10
国際頭痛学会 (IHS) の2025年 Position Statement の要約
国際頭痛学会 (International Headache Society: IHS) は、2025年2月に国際頭痛専門誌に掲載された片頭痛予防のためのより高い基準を設定する:国際頭痛学会の立場表明を発表しました。この文書は、片頭痛予防治療の基準を根本的に見直し、より野心的で患者中心の目標を設定することを提唱しています。以下にその主な内容を要約します。
背景と目的
- 片頭痛は世界で最も有病率が高く、障害を引き起こす神経疾患の一つであり、生活の質や生産性に深刻な影響を及ぼし、社会的コストも大きい。
- 近年、カルシトニン遺伝子関連ペプチド (CGRP) 経路阻害薬などの革新的治療の登場により、予防治療の可能性が拡大した。
- 従来の臨床試験基準(例:50%以上の症状減少率)は、患者の実際の生活改善を十分に反映していないため、実臨床での基準を向上させる必要がある。
- このPosition Statementは、臨床試験の基準を変えるものではなく、主に実世界の臨床実践を対象とし、成功の測定を相対的なパーセンテージから絶対的な目標へ移行することを提案。
提案される治療目標
IHSは、片頭痛予防の「志向目標」として、以下の4段階の治療目標を定義。治療開始後、患者ごとにこれを目指し、定期的に評価・調整することを推奨:
- 片頭痛の完全消失: 中等度~重度の頭痛日が完全に消失(理想的な目標)。
- 最適なコントロール: 月あたり中等度~重度の頭痛日が4日未満。
- 控えめなコントロール: 月あたり4~6日。
- 不十分なコントロール: 月あたり7日以上(治療変更を検討)。
これらの目標は、成人、子供・青少年、高齢者(適宜)で適用可能。予防治療の候補者は、IHSの実践推奨(2024年)に基づき、以下のいずれか1つ以上で特定:
- 発作頻度が高い(月4回以上)。
- 発作の重症度が高い。
- 急性治療の過剰使用。
- 患者の生活への影響が大きい。
実施のための推奨
- 評価方法: 治療開始前にベースラインを記録し、3ヶ月ごとに頭痛日誌などで再評価。目標未達時は薬剤変更や追加療法を検討。
- 患者参加: 共有意思決定を重視し、患者の目標を治療計画に組み込む。
- 科学的根拠: CGRP阻害薬などの新薬のエビデンスを基に、従来の50%減少基準を超える成果が可能であることを示唆。
- 社会的影響: 患者のQOL向上と医療資源の効率化が期待される。
当院院長の見解
本Position Statementは、頭痛日数をゼロにするという極めて高い目標を掲げた点において、画期的な提言として評価されます。
しかしながら、片頭痛患者においては、頭痛日数とは異なる指標によって生活の質が損なわれているケースも多く、そうした側面への配慮が十分とは言えないとの批判も存在します。
頭痛日数のみを評価指標とするのではなく、患者が感じる生活上の支障や心理的負担といった“声なき声”に耳を傾ける姿勢の重要性は、今後も変わることなく再認識されるべきであると考えます。









