お知らせ
2024.11.11
認知症の行動および心理症状(BPSD)には、無関心、不安、易怒性、興奮や攻撃性、妄想、幻覚、脱抑制、異常な運動行動などが含まれ、病気の進行中に90%以上の患者で見られます。これらの症状は患者さんの予後を悪化させ、経済的負担を増大させるだけでなく、患者さんおよび介護をする方の生活の質に悪影響を及ぼします。
これらの症状の高い有病率と管理の難しさから、治療方法について多くの研究が行われてきました。いくつかの研究では、スヌーズレン療法、音楽療法、マッサージ療法などの非薬理学的アプローチがBPSDの管理において高い効果を示すとされています。一方で、薬物療法を第一選択の治療法とするべきだとする意見もあります。
認知症の認知症状だけでなくBPSDの管理が重要であることから、厚生労働省は2024年5月11日、アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感、易刺激性、興奮に起因する、過活動又は攻撃的言動に対する治療薬としてブレクスピプラゾール(レキサルティ®)の発売を許可しました。これは、BPSD、特に興奮に対する治療薬として厚生労働省が承認した初の薬剤です。
ブレクスピプラゾールの薬理学
ブレクスピプラゾールはアリピプラゾールと化学的および薬理学的に関連する非定型抗精神病薬で、5-HT1A、D2、およびD3の部分作動薬として作用し、5-HT2A、5-HT2B、5-HT7、α1A、α1B、α1D、およびα2C受容体に対して拮抗薬として機能します。経口生物学的利用率は95%で、摂取後4時間以内に血漿中濃度がピークに達します。体内で定常状態に達するには10〜12日を要し、高いタンパク質結合率を持ち、腎機能や肝機能の低下による影響を受けません。半減期は52〜92時間で、1日1回の投与に適しています。
運動活動低下により転倒を引き起こしやすくなる錐体外路症状(EPS)が少ないことが特徴です。セロトニンの発火も、興奮した患者の気分を改善する効果を持ちます。
他の薬剤との比較
BPSDの治療には、抗精神病薬、抗うつ薬、抗けいれん薬、コリンエステラーゼ阻害剤などが使用されてきました。これらのうち、アリピプラゾール、リスペリドン、クエチアピンが一般的に使用されています。これらの薬剤の特性とブレクスピプラゾールとの比較を以下に述べます。
アリピプラゾールはD2受容体に対する内因性作動性が高いため、ブレクスピプラゾールよりも副作用が多いです。クエチアピンはD2結合プロファイルが低いため、最も副作用が少ないとされています。リスペリドンは抗うつ作用と鎮静作用を持つα1、α2、H1受容体拮抗作用もあります。 ブレクスピプラゾールはセロトニンおよびα1B受容体に対する結合力が強く、抗精神病薬に関連するEPSをより効果的に軽減し、H1受容体への結合が少ないため鎮静作用も少なくなっています。
アリピプラゾールとクエチアピンは高血糖をきたす場合があり、糖尿病の患者さんには使いにくい薬剤です。
結論
ブレクスピプラゾールは、認知症における興奮の新しい治療法として有望視されており、EPSの発生率が比較的低いことが特徴です。しかし、抗精神病薬であるため、重篤な心血管および血液学的副作用を考慮して慎重に使用する必要があります。用量の調整が重要であり、BPSDに対する第一選択の治療法として非薬物療法として推奨されるでしょう。他の一般的な薬剤との直接比較試験に基づくさらなるデータが得られれば、ブレクスピプラゾールが難治性症例に対する治療の第一選択薬となる可能性があります。
2024-11-11記載